――数々の経済小説、企業小説で知られる高杉さんが、初の自伝的作品『めぐみ園の夏』(新潮社)に取り組んだきっかけを教えてください。
 ちょうど2年前の今頃です。息子一家と食事していた時に、これまで経済物、企業物でやってきたが、そろそろ自分のことを書いたらという話になりました。考えてもみなかった話ですが、そうか、書くなら「めぐみ園」だろうと。

 

――作品の舞台は、昭和25年、千葉県の児童養護施設。そこに小学校六年生の杉田亮平君が入園してきます。
 本名そのままではちょっとね(笑)。1字変えることにしましたが、もちろん僕自身といっていい。書くと決めたら、どっと湧き出すように記憶がよみがえってきました。あの多感な少年時代の1年半のことは、よく憶えているんですね。大学ノートに、どんどんメモを取っていきました。

――戦争孤児の施設が舞台で、主題歌も有名なラジオドラマ「鐘の鳴る丘」が、昭和二22年から二25年まで放送されています。
「鐘の鳴る丘」は、時々ラジオで聴いていた記憶があります。「めぐみ園」も戦災孤児が多かった。そういう時代ですよ。両親がいない子が圧倒的で、親がいるのに入園したのは、僕たち4人きょうだいだけでした。

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