「麻酔科医」の目から見た子供を取り巻く世界の手術環境

執筆者:医療ガバナンス学会2018年5月18日
ボランティア先の現地スタッフと一緒の脇本さん(筆者提供、以下同)

 

【筆者:脇本麻由子大阪警察病院麻酔科医】(詳細プロフィールは本文末尾に)

 私は麻酔科医です。麻酔科医になってから、10年が経ちました。3年前に、勤めていた子ども病院を退職し、1年間、さまざまな開発途上国の手術麻酔のボランティアに参加しました。この経験を基に、子供たちをとりまく世界の手術環境について皆さんに少しお話しようと思います。

 まず、統計についての話をします。国連によると2015年時点での世界の人口は74億人で、2050年には100億人に達すると予測されています。爆発的な人口の増加は、現時点ではアジア地域を中心に起こっていますが、今後それはアフリカ地域に移っていくと予測されています。いずれにしても、重要なのは、人口増加のほとんどが、「開発途上国」と呼ばれる地域に集中しているということです。さて、ここで問題です。この方たちの一体何%が、現在、必要な手術を受けることができているでしょうか? 世界にはどの位の数の医者がいて、どのくらいの医療資源があるでしょうか?

 2008年に医学雑誌『Lancet』が掲載した報告によると、現在、全世界で施行されている全手術のおよそ75%は、先進国のうち最も豊かな上位3カ国で行われています。一方で、開発途上国の中でも、最も貧しい下位3カ国で行われている手術は、全体のわずか3%に過ぎません。これらの国においては、人口10万人あたりの麻酔科医の数が1人にも満たない状況であり、ほとんどの方々が、必要な手術を受けることができない状態にあると言えます。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。