戦場は宇宙へ(NASAのHPより)

 

 ロシア国防省の刊行物に、『軍事思想(ヴォエンナヤ・ムィスリ)』という雑誌がある。ロシア軍参謀本部が編集している月刊誌で、毎号、現役・退役の軍人たちによる様々な論文が掲載される。著者はいずれも制服組の軍人なので、「山岳地での補給に関する諸問題」といった極めて専門的な論文もあるが、安全保障を巡る大状況を把握する上で興味深いものも少なくない。

 ここ数回の小欄で取り上げてきたロシアの宇宙戦略について言うと、2018年5月号に「現代的条件下における宇宙優勢確保のためのアプローチ」と題された論文が掲載された。これによると、宇宙優勢とは「一方の軍事衛星が他方のそれに対して決定的な優位」を有する状態のことを言い、このような環境下では「人工衛星に対する敵の妨害を受けることなく課題を解決することが可能となる」という。

相手の足を引っ張る「宇宙版ゲリラ戦略」

 前々回(2018年5月15日「復活に向けて動き出したロシア『宇宙大国化』」)で詳しく紹介したように、現在のロシアは宇宙空間において「優勢」とは程遠い状態にある。数の面でも性能の面でも「決定的な優位」を持つのは、米国やそこに猛追を掛ける中国であって、ロシアは遅れ気味だ。また、ロシアの科学技術力や経済力の水準から言っても、近い将来にロシアが宇宙「優勢」を獲得できる見込みは乏しい。

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