最終回・仮想通貨は国家をゆるがすか?

執筆者:野口悠紀雄2018年7月6日
(C)AFP=時事

 

 これまで見てきた数千年の長い歴史を通じての重要な教訓は、政府はマネーを創造することによって財源を調達できるということだ。とりわけ戦費の調達には、この手段が重要な役割を果たしてきた。

 こうしたことが可能なのは、マネーの発行権が中央銀行によって独占されており、政府が中央銀行に影響を与えられるからだ。

 現代の世界では、中央銀行によるマネー発行の独占は当たり前のように考えられていて、誰も疑問を差し挟まない。しかし、歴史的に見ると、そうではない時代もあった。

 かつては、発券銀行は1国に複数あった。イングランド銀行は1694年に設立されているが、唯一の発券銀行になったのは1844年のことだ(現在でも、スコットランドには発券銀行がある。香港には、発券銀行が3行ある)。

 アメリカでは、19世紀に「フリーバンキング」の時代があった。当時の銀行は「ヤマネコ銀行」と呼ばれて、最初から胡散臭いもののような印象を与えるが、実体を見れば、必ずしもそうとは言えなかった。

 経済学者の中にも、政府によるマネー発行権の独占を廃止すべきだとの意見は、昔からある。その代表が、フリードリッヒ・フォン・ハイエクだ。彼は、1976年に刊行された『貨幣の非国有化』(Denationalisation of Money)で、貨幣発行の自由化を主張した。「政府が管理しない通貨は、単に機能するだけでなく、望ましいものだ」との主張だ。

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