「分散型ID」は現在の仕組みとどう違うか?

執筆者:野口悠紀雄2020年10月8日
リブラ公式HPより

 

 伝統的社会では本人証明は必要なかったが、都市化によって匿名化が進み、本人証明が難しくなった。インターネットではさらに難しい。このため、預金不正引き出しなどの事故が起きている。これに対応するための現在の仕組みはID・パスワード方式だが、さまざまな問題がある。そこで、「分散型ID」が提案されている。さらに、ブロックチェーンを用いる「分散型の公開鍵基盤」が開発されている。

都市が人間を自由にした

 伝統的社会の規模が小さいコミュニティでは、誰もが他の人のことを良く知っていた。誰もが互いの顔を知っているだけでなく、生活のあらゆる側面が筒抜けになっており、各人の普段の行いや、これまでの履歴を知っている。だから、誰だかすぐに分かる。本人証明のために特別の手段を設ける必要はなかった。

 ところが、都市は、そうしたコミュニティからの脱出を可能にした。

 中世ドイツで、「都市の空気は(人間を)自由にする」( Stadtluft macht frei)と言われた。

 これは、もともとは、都市の城門内に逃げ込んだ農奴が、一定期間が経過すると自由の身分を得られたことを表したものだ。ただ、より一般的な意味で使われることが多い。つまり、「都市は匿名性を保障する」ということだ。そして、匿名性は人間を自由にする。

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