はじめに――「中華帝国」と「悪党たち」
2021年4月29日
本連載は銘打って「悪党たちの中華帝国」という。
これだけだと、何の変哲もないタイトルにみえるかもしれない。しかし筆者としては、少しくしかけ、ないし戦略を含ませたつもりである。そこでまず、タイトルの説明からはじめたい。
「中華帝国」とは何か
末尾の「帝国」とは、多義的な言い回し・概念である。わが日本の歴史にまつわる語彙でも、大日本帝国・帝国主義・帝国日本など、含意の異なるものが、すぐいくつも思い浮かぶにちがいない。そんなことばをあえて用いて「中華帝国」といったのは、そうした多義を兼ね合わせたいねらいがある。
まず「帝国」には、近現代で国民国家の範囲を越える広域の統合支配を指す意味があって、おそらく現在、最もポピュラーな用法だろう。「大英帝国」「イギリス帝国」というような歴史用語が典型であろうか。帝国日本というやや学術的な術語もそうだし、経済に重点をおく点を考慮すれば、帝国主義という概念もその範疇に含んでよい。
これは古代ローマ帝国のアナロジーから来ており、国民国家・近代より以前にも援用してきた。たとえばペルシア帝国・オスマン帝国・ムガル帝国というような言い回しであって、史上の中国を「中華帝国」と称するのも、もちろん同じ。
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