イスラエルでは2021年6月13日、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が退陣した。1996年に初めて首相になって以来、四半世紀にわたってイスラエル政界の「顔」だったネタニヤフがついに政権を手放したことは、今年の中東の重要な出来事として、記しておかなければならないだろう。

 ネタニヤフが議会の最大野党で単独の政党としては最大の議席を持つリクード党の党首であることは変わらず、情勢次第で首相再登板もありうるものの、ここ数年のイスラエル政界は「どうやってネタニヤフを辞めさせるか」を基軸に動いていたようなところがあり、そう簡単に復活が許されるとも思えない。ひとまずは「ネタニヤフ時代の終わり」を論じて良さそうだ。

 筆者自身を含む、中東に関わる現役世代のほとんどは、イスラエル政治における「ネタニヤフ時代」を目撃してきた。ネタニヤフが首相ではなかった、あるいは政界に大きな影響力を行使していなかった時期を思い出せる人は多くない。

首相公選で当選・落選から連立政治の名手に

 ネタニヤフは1996年から1999年にかけて首相を務めた。この時はイスラエルで首相公選制が導入されて初めての首相公選選挙に勝利して、就任した。1999年の首相公選選挙で敗れ、首相公選選挙で敗れて退陣した最初の首相にもなった。公選された首相が率いる政党が、比例代表制による議会選挙では必ずしも勝てないため、内閣の維持に苦労して統治の成果を上げられない、首相の権限を強める目的で導入された首相公選制度の予想外の弊害に直面した、最初の政治家とも言える。

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