新生活

執筆者:阿川佐和子2023年7月30日
健康のためにオートミールを食べ始めたはずが……(写真はイメージです)( macroworlds / Pixabay

 本連載をまとめた『母の味、だいたい伝授』を上梓した。友人知人に季節の挨拶代わりとして謹呈したところ、ゴルフ仲間の紳士G氏からメールで返信をいただいた。

 「僕もオートミール派だ。同じだね」

 一瞬、なんのことかわからず、まもなく思い出した。そうだ、あの本の中にオートミールの話を書いたのだった。

 八年ぶりに健康診断を受けたところ、動脈硬化が進んでいると診断され、糖質制限を心がけるよう医者から勧められた。その結果、毎朝パンのかわりにオートミールを食べることにした。たしかにそう書いた。しばらく食べ続けた記憶もある。が、まもなく私の健康ブームは去り、オートミールのことなどすっかり忘れ、動脈硬化の恐怖も薄れ、あっという間に糖質を制限しない生活に戻っていたのであった。

 もっともそのエッセイの最後でしっかり予言はしていた。きっと長続きしないであろうと。己の性格を熟知していたものだ。いや、そのエッセイを書いている時点ですでに断念し始めている気配がある。とはいえ、「オートミール生活を始めました」と読者に宣言しておきながら、二年を経ることなくその存在自体を忘れていた自分に呆れる。

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