現在の中東政治・外交の共通の課題を表す概念を一つだけ挙げるならば、"de-escalation"だろう。これをどう訳すか。「緊張緩和」とでも訳すのが無難だろうが、あえて『フォーサイト』では国際政治に慣れた読者も多いと思われるので、「脱エスカレーション」としておきたい。

「脱エスカレーション」は中東外交で多くの組み合わせで入り乱れて行われているが、その代表は、かつて盛んに喧伝された「サウジ陣営VSイラン陣営」の対立、ひいてはその背後にあるとされた「スンニ派VSシーア派」の対立を緩和し、衝突のリスクを下げていく対話の動きである。サウジとイランは2016年初の対立激化・国交断絶を、今年3月の中国の仲介による合意で解消しようとしている。また、2017年6月の「カタール外交危機」でサウジ・UAEやエジプトとカタールとトルコの間に生じていた対立も解消され、カタールのサッカーワールドカップとUAEの万博が共に友好的な雰囲気の中で開催された。また、ムスリム同胞団への支援で「イスラーム的な民主化」のモデルを輸出するかのような宗主国態度を取ったトルコに対するアラブ諸国やイスラエルの危機意識がもたらした「トルコ包囲網」は、トルコ・エルドアン大統領の歩み寄りをもたらし、これも友好関係の再構築に向かいつつある。

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