FSB内部では、経済的利害関係などからいくつかの派閥が存在する[クレムリンで行われた高等軍事学校の卒業生との会合に臨むボルトニコフFSB長官(中央)=2023年6月21日、ロシア・モスクワ](C)AFP=時事

 巨大な「防諜国家」であるソビエト連邦では、国家体制の正当性を護持するべく、悪名高い国家保安委員会(KGB)が「西側の脅威」に関するナラティブを形成し、国民や企業、政府に至るまで遍く浸透していた。KGBは国家政治や外交、軍事にまで強い影響力を有する「国家内部の国家(state within a state)」へと膨張したが、ソ連の崩壊により、ロシア連邦ではその主な機能は連邦保安庁(FSB)に引き継がれることとなった。

 ウクライナへの全面侵攻というロシアにとっても様々な意味で重要な局面にある中で、改めてFSBの影響力について概観しておきたい。

巨大な組織FSBとその影響力:あらゆる組織内部にいる「FSB出向職員」

 現代ロシアの主要な情報機関には、FSB、対外情報庁(SVR)、国防省情報総局(GRU)などがあるが、このうちFSBとSVRはKGBを前身としている。組織としてのKGB成立の経緯については割愛するが、その位置づけは当初より、ソ連共産党の最高意思決定機関である政治局の指示に従う「政治機関」であった。その人員数は膨大なもので50万名ほどに上ったとされており、「現役予備将校」(KGB職員は軍人扱いである)として、軍のほか、あらゆる政府機関やメディア、大学等の学術機関、教会、企業等に勤務しながら、機密保持や諜報・防諜活動に従事した。

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