2017年6月。中国の軍事侵攻の危機にさらされる台湾。米空母戦闘群が防衛に向かった。その時、北米大陸の送電線網に異常が生じ、大停電が起きる。中国国家主席はホットラインで結ばれた米大統領に対し、「さらなる停電の拡大もありうるだろう」と脅す。台湾防衛に向かっていた米空母戦闘群は任務を断念。退却を余儀なくされた。送電線網撹乱による停電拡大は、金融、航空輸送をはじめ、米国のインフラにどこまで壊滅的打撃を与えるか、予測もつかない……。
 新刊『脆弱なるアメリカ』が描き出す近未来の「米中サイバーウォー(電子戦)」の姿だ。著者は一昨年まで米政府の情報防護(対スパイ)活動を統括していたジョエル・ブレナー。紙の発行を止めサイバー新聞となった米紙「クリスチャン・サイエンス・モニター」が、書評で大きく取り上げた。書評では、ブッシュ前政権のテロ対策特別補佐官リチャード・クラークの著書『サイバーウォー』も紹介された。同書は昨年出版され波紋を広げた。 【America the Vulnerable, The Christian Science Monitor, Nov. 4】

スタックスネットの衝撃

 米政府の元高官らによる相次ぐ著書が警告を発する。サイバー攻撃は、安全保障の大きなテーマになっている。日本では、この4月にソニーがサイバー攻撃を受け、ゲーム機のオンラインサービスから1億人分といわれる個人情報が流出した。さらに9月以降、三菱重工、IHI、川崎重工など防衛産業企業へのサイバー攻撃が相次いで明らかになった。日本のサイバー空間の脆弱さは、アメリカの比ではないかもしれない。この問題での日本の騒ぎは、周回遅れの気配もある。
 世界の耳目がサイバー攻撃に向けられたのは昨年秋。イランのコンピューター3万台がスタックスネットと呼ばれるウィルスに感染、同国の核開発に大きな遅れが生じたというニュースが世界を駆け巡ったときだ。イスラエル犯行説が出た。それは依然消えていない。本欄でも昨年10月に、「フィナンシャル・タイムズ(FT)」紙の特集を引用して、この問題を紹介した。 【A code explodes, Financial Times, Oct.1, 2010】スタックスネットが世界的注目を浴びる中で、アメリカは昨年10月、米軍内にサイバー司令部を発足させた。陸、海、空、宇宙空間に次いでサイバー空間が「新たな戦場として正式に認知された」。米国防総省のリン国防副長官は昨年秋の「フォーリン・アフェアーズ」誌に寄せたサイバー戦略についての論文で、そう宣言した。これも本欄の同じ回で取り上げた。【Defending a New Domain, Foreign Affairs, Sept./Oct., 2010】

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