与党が国会の会期を9月27日まで大幅延長した目的は、言うまでもなく5月15日に政府が提出した安全保障関連法案の今国会での成立を期すことにある。政府・与党提出法案は自民、公明両党が衆参両院で過半数を握っているのだから、理屈の上では成立しないはずがない。にもかかわらず、与党がもたついているのは、自民党の国会対策が失敗続きだっただけでなく、安倍政権が世論の反発を無視できなくなっているからである。
 維新の党と民主党の対案をどのように処理するかという不確定要素はあるものの、政府提出の安全保障関連法案がいずれ採決されることは間違いない。ただ、安倍政権としては、国民の反発を極力抑えた状態で採決を終えたいはずだ。内閣支持率の低下が、安倍晋三首相の悲願でもあるこれからの憲法改正作業にも悪影響を及ぼすからだ。

60日ルール

 安全保障関連法案についての国民的理解が深まっていないことを踏まえて、首相官邸も法案審議と採決にあたっては、ある程度の支持率低下はやむを得ないと考えているふしがある。世耕弘成官房副長官は6月中旬、会期延長幅が政界の関心事となっていたころ、周囲にこんなふうに本音を漏らしていた。
「支持率はいずれにしても下がるだろう。だから参院で1回で採決を済ませてしまうという考え方もある」
 世耕氏の発言の意味について少し解説が必要だろう。
 衆院を通過した法案の参院での扱いについて、憲法59条は次のように定めている。
「参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる」
 この条文は、いわゆる「みなし否決」に関する60日ルールのことを言っている。つまり、安全保障法案が衆院を通過した後、60日が経過すれば、参院が法案を否決したものとみなせる。これにより、衆参両院の議決が異なること(衆院は可決し、参院は否決したということ)になり、法案を衆院に戻して衆院本会議で3分の2以上の賛成によって成立させることができる。このため、世耕氏の発言があった6月中旬の時点では、今国会の会期延長幅について、60日ルールを見込んだ60日以上とするか、それとも延長は60日以内にとどめ、その期間内に参院での採決を目指すかが問題となっていたわけだ。
 ただ、60日ルールを使うと衆院で2度採決を行うことになる。世耕氏は採決のたびに内閣支持率が下がることを想定し、それなら60日が経過する前に参院で強引に法案採決に持ち込んで成立を図ったとしても、採決の回数は同じ2回なのだから、支持率に及ぼす悪影響は似たようなものだと推論したわけである。

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