かつて、同性愛者のスパイは米国でも英国でも、敵に付け入られる「リスク」が高い、として禁止されていた。しかし時代は大きく変わった。
 このほどワシントンの米国防情報局(DIA)本部で、「ICプライド・サミット」と題する集会が開かれた。米インテリジェンス・コミュニティ(IC)内での性的マイノリティ(LGBT)の活動促進が集会の狙い。米中央情報局(CIA)や各省・軍部の情報機関など計17機関のLGBT職員らに加えて、彼・彼女たちを支援する人たち計約1000人が参加した。今年で5回目の年次総会だ。ICを束ねる国家情報長官(DNI)のジェームズ・クラッパー、連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コミー、DIAのビンセント・スチュワートの3長官が顔を揃えた。
 クラッパー長官は、IC幹部の間でLGBT職員を歓迎するのは「正しいことであるだけではない。プロとしていい仕事をするということだ」と力説した。LGBTもインテリジェンス活動で必要、という認識である。

赤狩りとラベンダー

 米国では1950年代、「赤狩り」で知られるジョセフ・マッカーシー上院議員が「ホモセクシャルにはトップシークレットを扱わせない」と発言して、国家安全保障関係機関内の「性倒錯者」を追及、「ラベンダーの恐怖」と怖がられた。その影響を受けて、アイゼンハワー政権は1953年、「性的倒錯者」を解雇可能とする大統領令を発し、のべ約1万人が職を失ったと伝えられる。
 これに対して同性愛者の運動が起きた。「ラベンダー」の色は、ナチス・ドイツ時代、強制収容された男性の同性愛者に付けられた三角形の識別胸章の色にちなんだもので、現在ではこの色はLGBTのプライドや権利を象徴するシンボルとして使われている。
 1995年、アイゼンハワーの大統領令を廃止して、「性的傾向のみを理由とする雇用基準」を禁止する新大統領令を出したのはクリントン元大統領だ。
 「女王陛下のスパイ」の国、英国でも1991年まで、防諜機関「英情報局保安部(MI5)」、対外情報機関「英秘密情報局(MI6)」、盗聴機関「政府通信本部(GCHQ)」では同性愛者の雇用が禁止されていた。

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