10月5日に、シリアのクルド人勢力が主導して、米軍の空爆支援を受け、「イスラーム国」のシリアでの「首都」ラッカの制圧に着手した。「ユーフラテスの怒り」作戦と名づけられている。アサド政権によるラッカ攻略に先んじて「イスラーム国」の主要拠点の制圧を進め、米国などに現地の同盟勢力としての有用性を認めさせ、対抗する諸勢力との関係で優位に立とうとしているのだろう。

 自治をめざすクルド人勢力にとっては大きな賭けである。アラブ人やシリア北部の少数宗派・民族を加えたシリア民主軍(SDF)を謳っているものの、事実上のクルド人勢力の支配領域を大幅に拡大する動きとなる。しかもラッカの多数派はアラブ人である。クルド人勢力による制圧と統治に対して、反発が出る可能性がある。

 クルド勢力がラッカを制圧したとしても、国際政治の情勢の変化や、国内諸勢力のバランスの変化を見計らって、アサド政権が今度はクルド人勢力を制圧する展開にもなりかねない。また、トルコが自国内の反政府組織PKKと密接な関係があるとみなすPYD/YPGを主体とするクルド人勢力のシリア北部での伸張を許さず、8月に踏み切った「ユーフラテスの盾」作戦をさらに拡大して、シリアのクルド人勢力の支配領域に侵攻してくる可能性もある。

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