中東―危機の震源を読む (91)

トルコ軍侵攻はシリア内戦の構図をどう変えるか

執筆者:池内恵 2016年8月28日
エリア: 中東

 トルコは8月22日からシリア北部の国境地帯ジャラーブルス(Jarabulus)に砲撃を開始し、24日からは戦車部隊を侵攻させて制圧した。トルコ軍は米国などの空爆支援を受け、現地のシリア反体制派諸派と連携している模様だ。2012年にシリア内戦が本格化して以来、トルコの直接的な大規模な侵攻作戦はこれが初めてである。

 トルコは侵攻の理由として、表向きは、ジャラーブルスを制圧していた「イスラーム国」の撃退を謳っており、戦果を誇って見せているが、実態はシリア北部で伸長するクルド人勢力のこれ以上の拡大の阻止こそが、侵攻の最大の目的であると思われる。「イスラーム国」勢力はなぜかジャラーブルスからほとんど抵抗せずに退去している。トルコは部隊の増派を続け、南方のマンビジュからジャラーブルスに接近したクルド人武装勢力の人民防衛隊(YPG)に対して砲撃を行っている。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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