やっぱり残るは食欲

冬を待ちたい

執筆者:阿川佐和子 2024年7月25日
タグ: 日本
エリア: アジア
お祝い事には鯛料理(写真はイメージです)

 鯛の浜焼きというものをご存じだろうか。ウロコと内臓を取り除いた新鮮な真鯛の内外にたくさんの塩を振り、お腹のなかには鶏卵を二つ三つ入れ(姿がぺちゃんこに崩れないための策)、さらにその鯛を頭と尾をつけたまま菰(こも)で包んで藁糸で縛り、大きな藁納豆のような形状にした上で、遠火でじっくり焼く、あるいは蒸す。

 瀬戸内海の各地でおめでたい席に供する鯛の伝統料理の一つであり、ただの塩焼きとはひと味違う。藁の香りの染み込んだ深い味わいが広がるのが特徴で、冷めた状態でも実においしい。そもそもは、塩田豊かな瀬戸内海の沿岸各地にて、海で獲った鯛を塩に埋め込んで蒸し焼きにしたことが始まりらしい。江戸時代の話である。一般的な「浜焼き」とは、釣った魚介類をただちに浜で焼いて食べることを意味し、そちらは全国各地の港町の料理店で見かけるものだが、鯛の浜焼きは、それとはやや趣を異にする。

カテゴリ: カルチャー
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
阿川佐和子(あがわさわこ) 1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。『ああ言えばこう食う』(集英社、檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館)で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』(新潮社)で島清恋愛文学賞を受賞。他に『うからはらから』、『レシピの役には立ちません』(ともに新潮社)、『正義のセ』(KADOKAWA)、『聞く力』(文藝春秋)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top