
【前回まで】ハワイ会談の目的は、在日米軍の撤退通告――。衝撃的な情報を掴んだ磯部たちは、バーンズ国防長官との会談を前に、都倉防衛大臣に筆談で密かに伝達しようとする。
Episode6 一世一代
23(承前)
「それで、何をプレゼントするの?」
「これです」
「ピカチュウ?」
アニメのキャラクター人形だった。
「既に廃番になっているんですが、頭を撫でると、喋るんです。長官のお嬢様は、大の『ポケットモンスター』ファンで、中でもピカチュウのコレクターなんだそうで。
メーカーに問い合わせて、未開封の見本を分けてもらいました」
そういう会話をやり取りしながら、都倉たちは、筆談を続けている。
“もし、そうなら、両国の首脳が会談して合意すべき高度な政治案件では?”
“そう思います。なので、あくまでも参考までに”
出発前、渡航準備に追われている最中ではあったが、都倉は磯部を行きつけの飲み屋に誘い、二人っきりで2時間ほど酒を酌み交わした。
都倉は磯部から軽蔑されている印象を持っていた。また、台湾潜水艦拿捕事件について、彼は都倉の対応をよしとしていないという噂も聞いていた。
だから仕事ぶりは信頼しているものの、心底信用できるまでには至らず、結果として二人の間にはギクシャクした関係が生じていた。
それを埋めようというのが目的の飲み会だった。
二人とも酒豪だったことが奏功したのかもしれない。最初の1時間はぎこちなかったが、磯部が先に腹を割ってくれて、ようやく互いのホンネをぶつけあえるようになった。
そこで都倉が、磯部に強く言ったことがある。

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