オペレーションF[フォース]
オペレーションF[フォース] (75)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第75回

執筆者:真山仁 2024年7月27日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】ハワイ会談の目的は、在日米軍の撤退通告――。衝撃的な情報を掴んだ磯部たちは、バーンズ国防長官との会談を前に、都倉防衛大臣に筆談で密かに伝達しようとする。

Episode6 一世一代

 

23(承前)

「それで、何をプレゼントするの?」

「これです」

「ピカチュウ?」

 アニメのキャラクター人形だった。

「既に廃番になっているんですが、頭を撫でると、喋るんです。長官のお嬢様は、大の『ポケットモンスター』ファンで、中でもピカチュウのコレクターなんだそうで。

 メーカーに問い合わせて、未開封の見本を分けてもらいました」

 そういう会話をやり取りしながら、都倉たちは、筆談を続けている。

 “もし、そうなら、両国の首脳が会談して合意すべき高度な政治案件では?”

 “そう思います。なので、あくまでも参考までに”

 出発前、渡航準備に追われている最中ではあったが、都倉は磯部を行きつけの飲み屋に誘い、二人っきりで2時間ほど酒を酌み交わした。

都倉は磯部から軽蔑されている印象を持っていた。また、台湾潜水艦拿捕事件について、彼は都倉の対応をよしとしていないという噂も聞いていた。

 だから仕事ぶりは信頼しているものの、心底信用できるまでには至らず、結果として二人の間にはギクシャクした関係が生じていた。

 それを埋めようというのが目的の飲み会だった。

 二人とも酒豪だったことが奏功したのかもしれない。最初の1時間はぎこちなかったが、磯部が先に腹を割ってくれて、ようやく互いのホンネをぶつけあえるようになった。

 そこで都倉が、磯部に強く言ったことがある。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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