
【前回まで】直ちに北朝鮮に対して防衛出動発令を――都倉の要請に、南郷総理も江島副総理も反対する。開戦に繋がりかねない出動より、別の報復措置を考えるべきと言うのだ。
Episode7 独立独歩
18
総理執務室を出たところで、都倉は江島に呼び止められた。
「都倉さん、ちょっと私の部屋に寄ってくれないか。できたら、磯部さんと樋口さんも、ご一緒に」
都倉は、各幕僚長に、先に市ヶ谷に引き上げ、準備を進めるように告げて、江島に従った。
副総理室には、土岐と周防も待っていた。
いったい何が始まるんだ。
「都倉大臣、ご無沙汰しております。どうしても、大臣にお伝えしたいことがあり、お時間を戴きました」
口火を切ったのが周防だったのにも、驚いた。
周防の操作で、楕円形のテーブルの先にある大型テレビに映像が映し出された。
澄み渡った青い空、そこに小さな点が現れたかと思うと……。
「周防、この映像をどこで?」
磯部の声で、愕然としてフリーズしていた都倉の脳が再始動した。
磯部の質問をスルーして、周防は都倉を見つめながら話し始めた。
「大臣、今から約4年前、日本のある研究者が、数学的な公式を用いて、確実にミサイルを撃ち落とせる画期的なレーダーシステムを開発しました」
「そんな話、初めて聞きます」
「はい。この技術は、アメリカから使用禁止命令が出て、闇に葬られました。当時の総理、官房長官、そして防衛大臣によってです」
「周防君、ちょっと待って。なぜ、日本の技術開発に、アメリカが口を挟むの。ましてや禁止命令とは」
「日米安全保障条約上、好ましくないからだそうです。磯部は、この一件を知っているよな」
「よくは知らない。ついさっき、暁光新聞の草刈から、官邸がアメリカの圧力に負けて画期的な技術を闇に葬ったというスクープを明日の朝刊で出すので、防衛省としてのコメントが欲しいと言われて驚いたところだ」
「そんな報告は、受けていないわよ」
都倉の非難に、磯部は顔を真っ赤にした。

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