
【前回まで】東京湾に落ちた北朝鮮のミサイル。総理の責務を果たせなかったとして、南郷は辞職を決意した。都倉に後任を迫るが固辞され、江島副総理と説得の方策を探る。
Episode7 独立独歩
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仙台市長と戸増知事との面談を終えたところで、周防のスマホに土岐から着信があった。
“おまえ、都倉防衛大臣と親しいよな”
「なんですか、いきなり」
“俺の質問に答えろ。どうなんだ?”
「親しいというのは、語弊がありますが、まあ、それなりに。でも、土岐さんの方が、お親しいのでは?」
“俺は単なるガイドだ”
財政の基本から問題点、そして展望を、土岐は長年都倉にレクチャーし続けてきた。
それは「単なるガイド」などという軽い立場ではないはずだが。
「私でお役に立てることなら、喜んで致しますが」
“そうか。じゃあ、大至急、東京に戻ってきてくれ。官邸で待っている”
電話はそこで切れた。
いったい自分に何をさせたいんだ。
あやふやな理由では、戸増に詫びて東京に戻るのは難しい。
その時、土岐からショートメールが届いた。
“〈オペレーションF〉のラストミッションの号令がかかった”
都倉響子を総理にするために、力を合わせる時が来たという意味だ。
江島を中心に日本の防衛を考えるためのオペレーション(作戦)を練ってきた。メンバーには土岐や周防のほか、現在都倉の秘書官補佐を務める樋口や、中小路なども名を連ねている。
目的は、防衛費については国債に頼らず、国民一人ひとりからの徴収でまかなうという意識の醸成と実現だ。そのために、安全保障の意味を国民や政治家に草の根的に説いてきた。
日本海連合結成もその一環だし、「防人税」を世に問うたのもそうだ。
そして、最終段階として、防衛費の徴収を国民に毅然と求める総理が絶対に必要だった。それが、ラストミッションだ。
周防は、戸増に「江島副総理から、大至急、東京に戻るようにという連絡を受けた」と告げて、仙台駅に向かった。
確認したいことがあり、移動中にショートメールで土岐に質した。
“都倉大臣が、腹を括られたという理解でよいのか”
“本人は、固辞している。説得しなければならない。おまえは、最後の切り札だ”

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