オペレーションF[フォース]
オペレーションF[フォース] (82)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第82回

執筆者:真山仁 2024年9月14日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】東京湾に落ちた北朝鮮のミサイル。総理の責務を果たせなかったとして、南郷は辞職を決意した。都倉に後任を迫るが固辞され、江島副総理と説得の方策を探る。

 

Episode7 独立独歩

 

11

 仙台市長と戸増知事との面談を終えたところで、周防のスマホに土岐から着信があった。

 “おまえ、都倉防衛大臣と親しいよな”

「なんですか、いきなり」

 “俺の質問に答えろ。どうなんだ?”

「親しいというのは、語弊がありますが、まあ、それなりに。でも、土岐さんの方が、お親しいのでは?」

 “俺は単なるガイドだ”

 財政の基本から問題点、そして展望を、土岐は長年都倉にレクチャーし続けてきた。

 それは「単なるガイド」などという軽い立場ではないはずだが。

「私でお役に立てることなら、喜んで致しますが」

 “そうか。じゃあ、大至急、東京に戻ってきてくれ。官邸で待っている”

 電話はそこで切れた。

 いったい自分に何をさせたいんだ。

 あやふやな理由では、戸増に詫びて東京に戻るのは難しい。

 その時、土岐からショートメールが届いた。

 “〈オペレーションF〉のラストミッションの号令がかかった”

 都倉響子を総理にするために、力を合わせる時が来たという意味だ。

 江島を中心に日本の防衛を考えるためのオペレーション(作戦)を練ってきた。メンバーには土岐や周防のほか、現在都倉の秘書官補佐を務める樋口や、中小路なども名を連ねている。

 目的は、防衛費については国債に頼らず、国民一人ひとりからの徴収でまかなうという意識の醸成と実現だ。そのために、安全保障の意味を国民や政治家に草の根的に説いてきた。

 日本海連合結成もその一環だし、「防人税」を世に問うたのもそうだ。

 そして、最終段階として、防衛費の徴収を国民に毅然と求める総理が絶対に必要だった。それが、ラストミッションだ。

 周防は、戸増に「江島副総理から、大至急、東京に戻るようにという連絡を受けた」と告げて、仙台駅に向かった。

 確認したいことがあり、移動中にショートメールで土岐に質した。

 “都倉大臣が、腹を括られたという理解でよいのか”

 “本人は、固辞している。説得しなければならない。おまえは、最後の切り札だ”

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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