【前回まで】ミサイルを確実に迎撃できる「奇跡のレーダー」。日本人が開発した新技術を、前総理らが封印したという。暁光新聞の草刈に、この特ダネを防衛省に当てる指示が下る。
Episode7 独立独歩
15(承前)
「副総理、中国大使がお見えになりました」
官邸スタッフからの案内で、駐日中国大使の趙孟毅[ジャオ・モンイー]が、厳粛な表情で入室してきた。
「江島副総理、お招きをありがとうございます。敬愛する日本国民の尊い命が奪われたこと、心からお悔やみ申し上げます」
趙は、流暢な日本語を話す。北京大学から、東大に留学し、大学院で博士課程まで進み、財政学を学んだ。中肉中背の体格だが、日本で柔道を学び、三段の腕前だ。
当時は日中関係が良好で、一時期、江島事務所でインターンシップを体験したこともある。以来、二人の付き合いは、30年以上続いている。
そして、2年前から、全権大使として日本に赴任している。
今回の訪問は、江島から「非公式でご相談がある」と持ちかけたものだ。
官邸で会う是非については、メディアの目が気にはなったが、江島は急ぎ、二人っきりで話したかった。
「今回の攻撃を受けて、我が政権は、重大な決断をしなければならない。それは、お分かりかと思います」
江島の言葉に、趙は深刻そうに頷いた。
「趙さんを信用して本当のことを話します。早晩、南郷総理は辞意を表明します。北朝鮮のミサイル攻撃を防げなかったこと、その後の対応を含め、総理として責任をお取りになります」
「潔いご決断です。さすが薩摩人ですね」
「ご相談というのは、後継者についてです」
趙が訝しげに江島を見つめる。中国大使に日本の後継総理の相談をする不面目を承知しつつ、江島は話を続けた。
「総理も私も、都倉防衛大臣を推したいと考えています」
「それは、大胆な人選ですね。優秀な方だとは思いますが……」
言葉尻を濁したのは、都倉の微妙な立場を知っているからだろう。
「当人は、固辞しています。自分は、総理の器ではないと。米中両政府からの強い干渉を受けてもいますからね」
「都倉大臣が総理にご就任なさっても、我々はなんら干渉は致しませんよ。もし、お願い事がそういうことなら」
「いや、趙さん、違うんだ。私が君に頼みたいのは、華希宝首相に、中国政府として都倉総理実現を期待するというムードを作って戴きたいんだ」
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