
【前回まで】都倉響子を総理に――オペレーションFのラストミッションが各方面で動き出した。だが、その契機となった北朝鮮のミサイルへの対処は、今も定まっていなかった。
Episode7 独立独歩
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江島が、総理執務室に赴くと、南郷は官房長官の伏見、環境大臣の島津と額を突き合わせていた。
「お邪魔かな?」
「どうぞ。ちょうどあんたを呼ぼうと思っていたところだ」
江島と入れ替わるように、伏見と島津は退出した。
「中国とアメリカからの都倉プッシュについては、今、手を尽くしている。それなりに奏功すると思う」
江島の報告を、南郷は喜んだ。
「俺の方は、はかばかしくない。そもそも総理辞任も、大反対をされている」
「辞任は、総理の自由だろう」
「そうなんだが、こんな状態の時に、誰が総理を引き受けるんだと。逃げずに落とし前を付けよというんだな」
「誰も総理をやりたがらないなら、都倉君に任せればいいじゃないか」
「そういう理屈は、通らないようだ」
いまだに都倉を裏切り者だと考えている保守党議員は多い。南郷総理が、後継者選びに嘴を容れることへの反発も大きい。
「さっきの二人は、どうなんだ?」
伏見官房長官と島津環境相は、いずれも南郷に近い側近だ。
「彼らも同様だ。それどころか、ここを乗り越えて、長期政権を目指せとまでぬかしおる」
長期政権は論外だが、南郷には、もうしばらくの間、総理の座に居座ってもらわなければならない。
「確かに、この難局は、あんたが乗り越えるべきじゃないか。都倉君に次を委ねるにしても、北朝鮮に対しての後始末を終えてからバトンを渡すのがいいだろう」
「あんたも、そう思うか。俺としても、逃げ出すというのは、主義に反する」
その覚悟を待っていた。
「よし、じゃあ、まずは、北朝鮮への対応だ。ミサイル発射基地への攻撃は、俺は反対だ」
「なぜだね。ここで反撃しなければ、北朝鮮だけではなく、世界中に日本は腰抜けだと喧伝するようなもんだぞ」
無論、日本国民の尊い命をミサイル攻撃で失ったのだ、見過ごすことはできない。だが、武力攻撃しか手がないというのは、成熟した国家として情けない。
反撃のためとはいえ、日本が戦後初めての武力行使を行えば、北朝鮮と開戦というリスクすらある。
そんな事態は何としてでも避けなければならない。
国民の命と国土、国益を守るため、なすべき事をしてこそ独立国家だ。しかも、既に米軍は、日本に駐留していない。自国のことは、自国で守るという意味を、今こそ、国民にしっかりと示さなければならない。
日本が頑ななまでに堅持してきた戦争放棄の精神を維持しつつ、北朝鮮に思い知らせてやる方法を、必死で考えたい。
「反撃をしなければ、腰抜けだと思われるというのは、大人げないぞ。ここは、熟考が必要だ」
「よかろう。考えている間、防衛出動のポーズを取るところまでは、俺が責任を持ってやるよ」

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