イスラエル絶対擁護というドイツの「国是」(後編)|交錯・衝突した2つの価値観

執筆者:曽我太一 2024年7月9日
エリア: ヨーロッパ
「パレスチナに自由を」と書かれた欧州議会選挙用の選挙ポスター(ドイツ国内にて筆者撮影)
ホロコーストの反省から生まれた「国是」は、ユダヤ国家イスラエルへの無条件の支持だけではない。国際法の遵守もまた、ドイツが過去を克服する上で拠り所としてきた原則だ。国際刑事裁判所と国際司法裁判所が相次いでイスラエルにNOを突きつけた結果、ドイツ政府はイスラエル擁護と国際法遵守という二つの路線の矛盾に引き裂かれた。イスラエルをめぐっては言論の自由が抑制されていると感じる国民も多く、世論調査ではもはや政府の掲げる「国是」への不賛成が賛成を上回っている。

 定義さえ曖昧なまま政治の舞台で提唱されてきたドイツの「国是」は必ずしも、国民の賛同を得られているわけではない。

 ヨーロッパ各地に拠点を置くシンクタンクELNET(European Leadership Network)が今年1月に行った世論調査(調査対象2500人)によると、「ハマスに対するイスラエル軍のガザ地区での軍事行動は適切だ」という意見にどれだけ賛成するかという質問で、「賛成する」と回答した人が41.8%だったのに対し、「賛成しない」と回答したのは、それを僅かに下回るだけの41.1%で、意見は真っ二つに分かれた。また、2023年10月の時点で「賛成する」と回答していた人が55.4%だったことからすると、時間が経つにつれて、イスラエルの軍事作戦を支持する人は大きく低下している。

イスラエルによる軍事作戦への賛否:ELNETによる世論調査を元に筆者作成

 さらに、オラフ・ショルツ首相が主張した「国是」について、「イスラエルの安全保障はドイツの国是である」という意見にどれだけ賛成するかという質問で、「賛成する」と回答したのは37.4%だった一方で、それを大きく上回る46%が「賛成しない」と回答している。

イスラエルをめぐる「国是」への賛否:ELNETの世論調査を元に筆者作成

発言の自由を抑制する「反ユダヤ主義」の定義

取材に答えるエリアナ・ベンダビッド氏(筆者撮影)

 リベラル系のユダヤ団体Jüdische Stimmeのエリアナ・ベンダビッド氏は、ドイツ人の知人との会話の中で、イスラエルによるパレスチナの占領などについて批判したことがあるという。その時の知人の反応は意外なもので、「イスラエルがやっていることを批判するイスラエル人に会えて、安心したようでした。そして、知人たちは小声で『あなたには賛同できるけど、私たちは公に言うことはできないの』と言うのです 」と話す。表向きはイスラエルを批判することはないものの、水面下ではイスラエルのことを批判的に見ているドイツ市民が 少なくないことがわかる。

カテゴリ: 社会 政治
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執筆者プロフィール
曽我太一(そがたいち) エルサレム在住。東京外国語大学大学院修了後、NHK入局。北海道勤務後、国際部で移民・難民政策、欧州情勢などを担当し、2020年からエルサレム支局長として和平問題やテック業界を取材。ロシア・ウクライナ戦争では現地入り。その後退職しフリーランスに。
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