
定義さえ曖昧なまま政治の舞台で提唱されてきたドイツの「国是」は必ずしも、国民の賛同を得られているわけではない。
ヨーロッパ各地に拠点を置くシンクタンクELNET(European Leadership Network)が今年1月に行った世論調査(調査対象2500人)によると、「ハマスに対するイスラエル軍のガザ地区での軍事行動は適切だ」という意見にどれだけ賛成するかという質問で、「賛成する」と回答した人が41.8%だったのに対し、「賛成しない」と回答したのは、それを僅かに下回るだけの41.1%で、意見は真っ二つに分かれた。また、2023年10月の時点で「賛成する」と回答していた人が55.4%だったことからすると、時間が経つにつれて、イスラエルの軍事作戦を支持する人は大きく低下している。
さらに、オラフ・ショルツ首相が主張した「国是」について、「イスラエルの安全保障はドイツの国是である」という意見にどれだけ賛成するかという質問で、「賛成する」と回答したのは37.4%だった一方で、それを大きく上回る46%が「賛成しない」と回答している。
発言の自由を抑制する「反ユダヤ主義」の定義
リベラル系のユダヤ団体Jüdische Stimmeのエリアナ・ベンダビッド氏は、ドイツ人の知人との会話の中で、イスラエルによるパレスチナの占領などについて批判したことがあるという。その時の知人の反応は意外なもので、「イスラエルがやっていることを批判するイスラエル人に会えて、安心したようでした。そして、知人たちは小声で『あなたには賛同できるけど、私たちは公に言うことはできないの』と言うのです 」と話す。表向きはイスラエルを批判することはないものの、水面下ではイスラエルのことを批判的に見ているドイツ市民が 少なくないことがわかる。

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