グローバルサウスの枢要国の一角である南アフリカであるが、その経済は低成長が続き、S&Pの格付も投資適格以下が続いている。特に製造業の低迷が課題となっており、本稿ではその要因と帰結について議論する。筆者は経済学のツールを用いて途上国の分析を行う開発経済学を専門としており、南アフリカの自動車産業についての企業データを用いた統計分析を行ったことがある1。また、後述する通り、本稿は南アフリカにおいて執筆した。
1人あたりGDPの低下が続く
まず、世界銀行のウェブサイトより閲覧できるマクロ経済データに基づいて南アフリカ経済を概観してみる。アパルトヘイトが終焉し選挙によってネルソン・マンデラが大統領となった1994年には、南アフリカの1人あたりGDP(国内総生産)は4258ドルであった。その後、2000年代に入ってからは鉱物資源ブームにより南アフリカが産出する金や白金の国際価格が高騰したことにも後押しされて、15年後の2009年には5847ドルにまで成長した。しかし、その後の15年間は停滞し(それどころかいくらか衰退し)、2024年の時点での1人あたりGDPは5709ドルとなっている。なお、いずれの数字も2015年の物価を基準とした実質値であるため、そのままの比較が可能である。1994年の時点で南アフリカはサブサハラアフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ)全体のGDPの約4割を産出していたが、経済の低迷により2023年にはそのシェアは2割以下にまで低下しており、南アフリカのアフリカにおける影響力は縮小してきている。
こうした南アフリカにおける大問題が失業率である。1994年の時点で既に23%と高い失業率であった。それが2009年には24%と微増し、その後2024年には33%にまで大幅に増加している。現在では働きたい人の3人に1人が失業している状態であり、異常だと言わざるを得ない。
高い失業率の背景にあるのが製造業の停滞である。GDPの内訳をみてみると、製造業由来のGDPの割合は1994年の21%から、2009年には15%、そして2024年には13%と低下し続けている。1994年の時点で、GDPに占める製造業のシェアは同程度の経済発展段階にある国と比べて低かったが、その後の30年間でシェアはさらに低下した。製造業は雇用創出力が高いため、これが育っていないことが失業率を高める大きな要因となっている。筆者は、途上国の持続可能な成長のためには、製造業の中でも特に多くの雇用を生み出す労働集約型の製造業の活性化が不可欠だと考えている。
失業率が高いことはそれ自体が問題であるが、さらなる社会問題にもつながる。都市の失業者はスラムに住まざるを得ないがゆえにスラムが拡大し、若者が失業している場合には暴動などの社会不安につながりうる。それだけでなく、高い失業率は格差の拡大を助長することになり、ひいては犯罪の誘発にもつながる。経済学的に言えば、失業者は失うものが少ないため犯罪をするコストが低く、格差が大きい国においては裕福層を狙った犯罪によるリターンが大きいのである。実際に2023年の時点で、南アフリカの人口10万人あたりの殺人発生数は44人であり、世界でワースト6位となっている。日本の同じ数字は10万人あたり0.23人なので、南アフリカでは日本の約200倍もの殺人事件が起こっている計算になる。
「尻すぼみのダイヤモンド型」の産業構造
なぜ製造業が低迷しているのか?
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