
2024年5月下旬、ドイツの首都ベルリンの一角で、現地のユダヤ団体がパレスチナに連帯を示す行事を開催した。主催したのは、リベラル系のユダヤ団体「Jüdische Stimme(ユダヤの声)」だ。会場では、パレスチナ解放闘争のシンボルでもある白黒網目模様のクーフィーヤを巻いたユダヤ系の市民や現地のドイツ人が参加し、パレスチナ占領を追ったドキュメンタリー映画が公開された。
会場となったのは、中東系移民が多いベルリン南部ノイケルン地区にある民間施設。しかし、この施設での開催となったのには訳がある。
Jüdische Stimmeは、ユダヤ人が中心となり、2003年にベルリンで創設された。中東における和平を求め、現在はイスラエルによるガザ地区での軍事作戦を強く批判する立場を取り、ドイツ国内各地で反戦デモを行っている。中にはホロコースト生存者の子孫もいる。しかし、同団体は、イスラエルに批判的な立場をとっていることから、ドイツ当局から「定期的な調査だ」として今回、団体の銀行口座を凍結された。当局からこうした扱いを受けているため、同団体の行事のために会場を提供すれば、貸し出した施設自体が“反ユダヤ主義的”と批判されかねない。このため、Jüdische Stimmeは施設の利用をことごとく拒否され、ようやく見つけることができたのが、この民間施設だったのだ。
許されないイスラエル批判
ドイツ当局や社会から厳しい視線を向けられるJüdische Stimmeだが、昨年10月7日以降、“イスラエル観”を巡って家族と対立・孤立した、ドイツを含む様々な国出身のユダヤ系市民の加入が増えているという。同団体のメンバーでイスラエル出身のエリアナ・ベンダビッドさんは、「ドイツでは、私たちはユダヤ人として扱われていないのです。悪いユダヤ人なのです」と話す。
現在のドイツでは、「ネタニヤフ政権に対する批判」や「イスラエルの占領政策に対する批判」から、「イスラエル国家の否定」までが一緒くたにされ、極右政党と連立するネタニヤフ政権の批判ですら「反ユダヤ主義的」と非難されかねない状況だ。
イスラエル軍事作戦に抗議するアメリカでの大規模な学生抗議の流れを受け、ドイツの大学でも大学生による抗議活動が起きたが、警察当局が厳しい取り締まりを実施。匿名での取材に応じ た南米出身の大学院生は、大学側から建物を占拠したとして不法侵入などの疑いで刑事告発された。その大学院生は、「ドイツでは表現の自由が保証されてきたという神話が自分の中で崩壊しつつある。自由な発言が認められるというのは真実ではない。言論の自由を規制する検閲のようなメカニズムが働いていると感じる」と話す。
ジャーナリストで作家のシャルロッテ・ヴィーデマン氏は、ドイツ当局が国内でのあらゆるイスラエル批判 に神経を尖らせる現状 について、「検閲」ではなく、「権威主義的対応」と呼び批判する。

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