軍政を説得しつつ民主化勢力を支援する「二重構造」の可能性:中川正春「ミャンマーの民主化を支援する議員連盟」元会長インタビュー(下)
防衛大がミャンマー国軍の士官候補生の受け入れを中止
服部 日本政府は2021年のクーデター後、新規ODAは停止する一方で、既存のプロジェクトについては継続するという方針でした。この政策については、どのようにお考えでしょうか。
中川 ODAのプロジェクトは、1つ1つ精査しないといけないと思います。軍が支配する企業――軍というより、軍人個人が支配する構造のようですが――に流れていくようなODAは停止する必要があるので、各プロジェクトの精査が大事です。人道支援や教育プロジェクトもODAでやっているわけですから、使い方を精査したうえで、停止すべきものを考えていくということです。全部ストップするということではないと思います。
服部 よく知られている例として、バゴー橋の場合ですと、ODAプロジェクトで下請け企業が軍系の企業だったことが途中で分かったけど、それでも完成に至っていますね。
中川 あれは情けないですね。その企業を外す形で完成させるのなら分かるけど。ただ、実際に外すのは交渉力が要ると思います。
服部 日本政府はクーデター後も長らく、ミャンマー国軍の士官や士官候補生を留学生として防衛大学校で受け入れてきました。これについて、議連は政府にどのような働きかけをしてきたでしょうか。
中川 クーデター後は特に、もう「(受け入れを)即やめろ」と働きかけてきました。
ただ、日本政府は軍のみならず、ミャンマー政府に対してさまざまな形で応援しています。たとえば法整備支援も法務省が人をしっかり出している。法整備は日本だけではなくて、特にドイツが熱心にやっていました。教育についても、日本の文科省が協力してJICAのイニシアチヴで作った教科書はミャンマー国内でも非常に評価が高い。士官や士官候補生の教育を自衛隊で引き受けるにしても、「今のミャンマーはおかしいよ」と、民主主義に基づく日本の自衛隊の文民統制の在り方を教えるのであればいいと思うんです。
服部 中川先生は議連会長として、2022年5月17日に「防衛省によるミャンマー国軍士官/士官候補生の受け入れを強く非難し、その中止を求める要請書」を当時の岸信夫防衛相と林芳正外相に出されてます。どんなやり取りでしたか。
中川 やり取りと言っても、文書を出すだけです。向こうは聞くだけですよ。
服部 その場で意見交換などはしないわけですか。結局、ミャンマー国軍からの留学生受け入れは、クーデター後しばらくしてから中止しましたね。(注・2023年度から新規の受け入れ中止)
少数民族組織もまだ民主化されていない
中川 実は今、軍側だけでなく、少数民族組織やNUGも、能力構築支援をやってほしいと私のほうに言ってきています。少数民族側も連邦制を求めているけど、民族ごとにイメージしている国家像がバラバラです。彼らの足元では民主主義が行なわれているのかというと、各民族の支配体制はまだ民主化されていない。だから、彼らの言葉で言うと、ボトムアップの連邦制を目指したいと、言うのです。そうした足元の政府構築と、将来の国の形を個々に話すのではなくて、それぞれの民族から同じような要請がきているので、全体で合わせて議論できるような場ができればと思っています。
なぜ日本にそれをやってくれと言うのか、彼らに聞いたところ、こういう事情があります。欧米は色々な民主主義の教室みたいなものを作っているものの、全体ではなく民族ごとに、特にカレン族などの地域を中心に支援している。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。