“永遠の総裁候補”石破茂の課題――「人望がない」以上に深刻な「政策がない」

執筆者:永田象山 2024年7月19日
エリア: アジア
知名度と人気では一歩先行しているが、具体的な政策や政権構想は見えてこない[自民党所属国会議員の集会に出席した石破茂元幹事長=2024年6月23日、秋田市](C)時事
9月の総裁選に向け、自民党内では岸田首相以外の選択肢を探る動きが活発化している。過去に4度総裁選へ出馬した石破茂元幹事長も注目を集める一人だが、長らく“党内野党”として政策立案の現場から離れており、政策通と目された側近たちも離れた今では、総裁候補として掲げる独自の政策が見当たらない。

 7月14日(日)早朝、岸田文雄首相はワシントンで開かれたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議、ドイツでの日独首脳会談などの外交日程を終え、羽田空港に到着した。足下が気になるのか、タラップを下りる際には終始俯きがちだったのが印象的だ。9月の自民党総裁選での再選に向けてどういった戦略を編みだしていくのか。確かに岸田の立場で言えば気の重くなる作業だろう。

「岸田総裁の再選は自民党にとって最悪のシナリオだ。下野(政権転落)も現実味を帯びてくる」(自民党関係者)

 7日に行われた東京都知事選挙。自民党が水面下で支援した現職の小池百合子都知事は291万8000票余りを獲得して勝利した。しかし、自民党の心胆を寒からしめたのは同時に行われた都議補選の方だ。9つの議席のうち自民党は8つの選挙区に候補を立てたが、結果はわずか2議席しか獲得できなかった。特に衝撃が走ったのは、党の前政調会長である萩生田光一衆院議員の地元、八王子の結果だ。萩生田が推した新人候補に対して、諸派で「非自民」を掲げた元職が4万5000票余りの差をつけて勝利した。裏金問題の影響が強く反映された結果だろうが、岸田の不人気ぶりも当然大きな要因となっている。

疑似政権交代にはうってつけの“党内野党”

「岸田さんで総選挙は本当に悪夢だ」(自民党関係者)。こうした自民党内の空気を反映してか、6月23日に国会が閉幕した直後から総裁選を意識した動きが表面化している。

 その中でも政界関係者の耳目を集めたのが1日(月)夜に行われた菅義偉前首相と石破茂元幹事長の会談だ。都内の中華料理店で行われた両者の会談には、旧二階派幹部で菅と良好な関係の武田良太元総務大臣も同席した。話題は当然、総裁選が中心であったと想像できるが、関係者によればこの場で石破は去就について明確な意思表示はしなかったという。それでも「石破さんはもう出るつもりでいるよ」(自民党議員)というのが党内の大方の相場観となっている。

 確かに各メディアの世論調査で石破は「総理にふさわしい政治家」で小泉進次郎元環境大臣や河野太郎デジタル大臣らと常に1位、2位を争う常連だ。また今回の総裁選は、石破にとって有利な状況にもなっている。これまで自民党は、政権や党への逆風が強くなってきた場合、それまでとまったくタイプの違う政治家をトップ=総理総裁に据え、“疑似政権交代”を演出してきた。

 古く昭和の時代は、田中角栄が金脈問題で退陣した際には「クリーン」と呼ばれた三木武夫でシフトチェンジした。また平成では、相次ぐ失言や、アメリカ海軍の原子力潜水艦が愛媛の水産高校の実習船に衝突した「えひめ丸事故」での致命的な対応の悪さなどで退陣を余儀なくされた森喜朗の後、「自民党をぶっ壊す」と威勢のよいかけ声で総裁の椅子を勝ち取った小泉純一郎が国民的人気を博し、自民党は蘇生した。

 そういう意味では、安倍・菅・岸田の政権でずっと冷遇され“党内野党”と目されてきた石破が総裁選に勝利し、石破政権で選挙を戦うとなれば、多くの有権者は「自民党は変わった」という印象を持つ可能性はある。これまで4回総裁選に出馬し敗れた石破だが、今回の戦いはこれまでよりも分があると言える。

 しかし、石破が本当に総裁選に勝利するには幾つものハードルがある。そのいくつかを検証していきたい。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
永田象山(ながたしょうざん) 政治ジャーナリスト
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