大国ロシアはどこへ向かうのか――ロシア・ウクライナ戦争の行方 軍事評論家の小泉悠さん・キーウ在住フリージャーナリストの古川英治さんに「高井さん」が聞く!
「古い戦争」への先祖返り
古川「弾薬不足などが指摘される。全体として今の戦況をどう見るか」
小泉「一言で言えば『ウクライナやや不利の膠着』という状況だ。ウクライナが国家として崩壊するといった負け方は当面はない。だが、大規模な軍事援助が入ってこないといずれじり貧になってしまう。米国の支援が止まっているのは重要な影響がある(収録後に米議会が追加支援を承認)。ただ、欧州は予想以上に支援に本腰を入れている。たとえばグズグズと言っていたフランスのエマニュエル・マクロン大統領は急に前向きになった」
古川「ウクライナの防御線の構築が実はあまり進んでいないという指摘や、士気の問題が気がかりだ。前線の兵士のローテーションが進んでいない。3月に東部の前線に取材に行った。開戦から2年、戦い続けている人もいる」
「もうひとつ気になるのは、ロシアが現状、どの程度まで力を高めているのかだ。北朝鮮から弾薬、イランからドローンを調達しているし、自国の生産を高めている。どこまでのことができるのか」
小泉「元々の人口差があるのでロシアの方が予備兵力は確かに大きい。質はともかく、兵力はかなりの程度集められている」
高井「総人口対比でウクライナは動員されている割合がかなり高い。それでローテーションが回せなくなり、2年間で休みが数日しかないという状態になっている。それはもう人間の限界を超えている。一方でロシアも、ものすごい人的損失を出す形で侵攻を続けている。本当に人間対人間の戦いになっているなという感じがする。
小泉「これはものすごい古臭い戦争だ。兵隊が塹壕にこもって1年も2年も戦い続ける第1次世界対戦みたいな戦場になっている。罷免されたウクライナ軍のワレリー・ザルジニー前総司令官が昨年エコノミストに寄稿している。ドローンなどの出現でどちらもお互いが丸見えになって身動きが取れず、塹壕にこもらざるを得なくなり、何が物を言うかといえば、『1日に何万発ぶち込めるか』という火力の勝負になる。戦車や航空機が登場し、塹壕戦を打ち破ったはずが、新しいテクノロジーの登場で一周回って1世紀前の戦争に戻ってしまった」
「それは消耗戦であり、工業力の戦いだ。ロシアは、ハイテクは弱いが、ローテク工業は非常に強い。巨大な工場に何万人も従業員がいて、使いもしない資材などが備蓄してある。西側の軍事産業から見ると、呆れるほど労働生産性が低い。だが、戦争になってみると、その無駄が余力に変わる。ビジネスとして最適な軍事産業を持った欧州とロシアでは勝負にならないとはっきりするまでに、2年かかった」
「ただ、ロシアの軍需生産能力の拡張も多分、ピークはもう近いと言われている。一方、欧州はこれから本格的に軍事生産の拡張を進めていく。欧州の軍事生産能力vs.ロシアと部分的に北朝鮮の軍需生産能力という勝負になる」
古川「チェコが南アフリカや南米 などから弾薬をかき集めるという動きもある」
小泉「実際には韓国もかなりの供給源になっていると思う。韓国はすでに50万発の弾薬を米国に供与しており、その分が『突き出し』でウクライナに行っているのだろう。朝鮮半島から出た弾薬がぐるりと地球を半周してウクライナで撃ち合いになっているのは皮肉な展開だ」

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