「駆け付け警護」任務の誤解を解く

執筆者:伊藤俊幸2017年1月19日
新任務を付与された陸上自衛隊第11次隊は、12月11日、南スーダンの首都ジュバで指揮権の移転式典に臨んだ [防衛省提供] (c)時事

 政府が、南スーダン国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊に対し、安全保障関連法に基づく「新任務」――いわゆる「駆け付け警護」を付与した実施計画の変更を閣議決定したのは、昨年11月15日のことだった。
 これに際し政府は同日、内閣官房・内閣府・外務省・防衛省の連名で「新任務付与に関する基本的な考え方」という文書(以下「考え方」と呼ぶ)を発表している。これには南スーダンPKOの参加目的と役割、新任務付与の理由などがまとめられているが、コンパクトすぎてやや舌足らずの感もある。そこでまず、この文書を読み解くところから、「駆け付け警護」について考えてみたい。

「駆け付け」ではなく「押し付け」

「考え方」の通し番号5と6には、次のようなことが書かれている。過去、自衛隊が東ティモールやザイールに派遣されていた時にも、不測の事態に直面した邦人から保護を要請されたことがあり、その際自衛隊は「そのための十分な訓練を受けておらず、法律上の任務や権限が限定されていた中でも、できる範囲で、現場に駆け付け、邦人を安全な場所まで輸送するなど、邦人の保護のため、全力を尽くしてきた」。
 実際の現場では、助ける能力のある自衛隊が近くにいるにもかかわらず、何もしないというわけにはいかない。だが「これまでは、法制度がないため、そのしわ寄せは、結果として、現場の自衛隊員に押し付けられてきた。本来、あってはならないことである」。
 具体的にどういうことが現場で起こっていたかについては、冨澤暉・元陸上幕僚長の連載「軍事のコモンセンス」の第9回「『駆けつけ警護』と『宿営地の共同防護』」に詳しい。これによると、PKO初参加となったカンボジアで、すでにこの問題があったことがわかる。しかもカンボジアにおいては、日本人文民(選挙監視要員)の警護を日本政府が自衛隊に要求したのだというのである。与えられた任務ではなく法制度もない中で、それはまさに「押し付け」られたものだった。
 これでは現場はたまったものではないが、指揮官は常に悩み、最後は自らのクビをかけ、その胆力と決断力でその場を乗り切ってきた。だがその本音は、「考え方」にある通り「本来、あってはならないこと」なのである。まずこの点が、これまでの「駆け付け警護」に関する議論の中で抜け落ちていたことだ。

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