昨夜記しておいた、アカデミー賞についての論稿で、助演男優賞のマーハシャラ・アリーが「イスラーム教と初のアカデミー俳優」となったと報じられた点に触れておいたが、本当にこれまでに受賞した俳優にイスラーム教徒がいなかったかどうかについては特に調べていない。本当にいないのかと問われれば若干自信がなくなる。

俳優以外の技術陣ではすでにイスラーム教徒の受賞者がいるのではないかという気がする。

内心の信仰は測りようがないという大前提があるが、しかしイスラーム教への改宗(あるいは生まれながらの信仰も)はアイデンティティの選択と社会的な表明という側面が不可分にあるので、改宗した場合は名前もイスラーム教徒と容易に分かるものに変えることが多い。ハリウッドでムスリム名で活躍する俳優というと確かにそれほど多くはない。スポーツ界ではかなり多くの黒人ムスリムが活躍していることが名前から分かる。

私がなんとなくこれまでにイスラーム教徒の俳優が受賞していない、という報道をそのまま受け取るのに微妙な不安を感じるのはおそらくスパイク・リー監督の「マルコムX」(1992年)があるからだろう。アメリカの黒人のイスラーム教団体「ネイション・オブ・イスラム」で活動したマルコムX(改宗名エル=ハッジ・マーリク・シャッバーズ;el-Hajj Malik el-Shabazz)を描いた作品だが、マルコムX役を演じて主演男優賞を受賞したデンゼル・ワシントンはイスラーム教徒ではない。また、監督のスパイク・リーもイスラーム教徒ではない。

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