実質戦費がどの程度だったかは、複雑な問題

執筆者:野口悠紀雄2018年6月8日
(C)AFP=時事

 

 第50回(2018年5月10日「第2次世界大戦における戦費の総額はどの程度だったか?」)で述べたように、日華事変(1937年~1945年)と太平洋戦争(1941年12月~1945年8月)の戦費の総額は、『昭和財政史』によれば、7559億円とされている。

 しかし、この中で、「臨時事件費」が5623億円であり、7559億円の約4分の3もの比重を占めている。この額は、ほぼ外資金庫の損失額に対応している。これは、中国や南方の占領地で激しいインフレーションが起きたにもかかわらず、為替レートを据え置いたために、書類上、占領地での名目支出が膨張したことによって「調整」が必要になり、帳簿上計上されたものだ。

 もし現地での物価上昇に合わせて為替レートを調整すれば、このような調整は不要だったろう。そして、軍事費は、臨時軍事特別会計の支出として計上され、その額は、外資金庫の損失額より遥かに少ない額になっていたはずである。

 その意味で言えば、前記の7559億円という額は、かなり「水ぶくれ」したものだと考えることができる。実質的な軍事費は、もっと少ないはずなのである。

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