マネーの魔術史 (54)

実質戦費がどの程度だったかは、複雑な問題

執筆者:野口悠紀雄 2018年6月8日
タグ: 日銀 中国 日本
エリア: アジア
(C)AFP=時事

 

 第50回(2018年5月10日「第2次世界大戦における戦費の総額はどの程度だったか?」)で述べたように、日華事変(1937年~1945年)と太平洋戦争(1941年12月~1945年8月)の戦費の総額は、『昭和財政史』によれば、7559億円とされている。

 しかし、この中で、「臨時事件費」が5623億円であり、7559億円の約4分の3もの比重を占めている。この額は、ほぼ外資金庫の損失額に対応している。これは、中国や南方の占領地で激しいインフレーションが起きたにもかかわらず、為替レートを据え置いたために、書類上、占領地での名目支出が膨張したことによって「調整」が必要になり、帳簿上計上されたものだ。

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
野口悠紀雄(のぐちゆきお) 1940年東京生まれ。東京大学工学部卒業後、大蔵省入省。1972年エール大学Ph.D.(経済学博士号)取得。一橋大学教授、東京大学教授などを経て、現在、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論。1992年に『バブルの経済学』(日本経済新聞社)で吉野作造賞。ミリオンセラーとなった『「超」整理法』(中公新書)ほか『戦後日本経済史』(新潮社)、『数字は武器になる』(同)、『ブロックチェーン革命』(日本経済新聞社)、『マネーの魔術史』(新潮選書)、『AI時代の「超」発想法』(PHPビジネス新書)など著書多数。公式ホームページ『野口悠紀雄Online』【http://www.noguchi.co.jp
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top