「エスプリ」でしか描けない北朝鮮の「顔」:ギィ・ドゥリール『マンガ平壌 あるアニメーターの北朝鮮出張記』

ギィ・ドゥリール 檜垣嗣子訳『マンガ平壌 あるアニメーターの北朝鮮出張記』

執筆者:2018年8月13日

 「人生は、クローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」

――チャップリン

 

 ギィ・ドゥリールの『マンガ平壌 あるアニメーターの北朝鮮出張記』は独裁国家・北朝鮮の日常の悲喜劇を活写するコミックルポルタージュの傑作だ。

 フランス語が公用語のカナダ・ケベック州出身の作者は、20歳ごろからアニメーターとしてカナダ、ドイツ、フランス、中国・深圳などを渡り歩き、現在は漫画家として活躍している。本作は、フランスの放送局から派遣され、2001年5月から2カ月間を平壌で過ごした体験をマンガ化したもの。原著が2003年、邦訳は2006年の刊行だ。

 滞在は1994年の「米朝枠組み合意」から、それが実質破綻する2003年まで、北朝鮮が「外」へわずかに窓を開いた時期にあたる。外貨稼ぎのアニメの下請けの監督役が作者の役回りだった。

 少々古い本なので情報の新鮮さは望めない。当時の指導者は金正日。作中には「ここの人たちは彼らの指導者に子どもがいることさえ知らない」というセリフが何気なく出てくる。

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