ウェブ版として復活した『カンボジア・デイリー』だが(サイトHPより)

 

 ドイツの国営ラジオ局は、その日の主な出来事を取り上げた3分間のニュースフラッシュを1時間ごとに流す。2017年9月5日のニュースフラッシュは、間もなく行われるアメリカの地方選挙、英国のEU(欧州連合)離脱、そしてカンボジアが掲げる民主主義の看板に大きく亀裂が入ったことを、声高に告げていた。『カンボジア・デイリー』が前日の4日、最大野党「カンボジア救国党」(CNRP)党首ケム・ソカーの逮捕と、同紙の終焉を、同時に報じていたのだ。同紙は、政府によって強制的に廃刊へと追い込まれていた(2017年10月18日「カンボジアを『育て』フン・センに『命を絶たれた』ジャーナリスト『バーナード・クリッシャー』の軌跡」参照)。

政府からの検閲通告書(筆者提供、以下同)

 そして世界中のメディアに、国際的な抗議と連帯を呼びかける声が溢れた。存在意義も目的もすべて失った瀕死の『カンボジア・デイリー』は、かつてないほどに有名となり愛しまれ、その不在を人々は惜しんだ。

 世界中の主要新聞が、カンボジアと同国の民主主義、表現の自由、ジャーナリズムに『カンボジア・デイリー』がいかに重要な役割を果たしてきたかを報じた。同紙は24年ものあいだ1日も休まず発行を続け、発足した当初から若い世代のジャーナリストたちに成長の場を提供した。数十年経ったこの時、若き日々を、ジャーナリズムが重要であった時代を、彼らは懐かしく思い出すこととなった。

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