大西巨人・のぞゑのぶひさ ・岩田和博『神聖喜劇』 幻冬舎/1512円

 「この門をくぐるものは一切の希望を捨てよ」。言わずと知れた、ダンテ・アリギエーリの『神曲』地獄篇の「地獄の門」に記された文句だ。大西巨人による戦後文学の金字塔『神聖喜劇』のタイトルは、『神曲』の原題『La Divina Commedia』の直訳から取られている。同作を、のぞゑのぶひさと岩田和博が10年かけてマンガ化したのが、同題の『神聖喜劇』(全6巻、幻冬舎)だ。

 第1巻の巻末で大西は、マンガ化を打診された際に「無謀な企てをする無謀な人たちだなぁ」と疑念と危惧を抱いたというエピソードを披露している。そして「完全漫画化」と銘打たれたマンガ版に、大西は原作者としてではなく、著者の1人として名を連ねている。この一事だけでも、このマンガ版の完成度の高さが知れる。

「戦後文学必読の書」

 小説『神聖喜劇』(全5巻、光文社文庫)については、いまさら賛辞を並べ立てる必要はないだろう。手元にある文庫版の帯の文句は、「日本文学史上に輝く大傑作 これぞ不滅の面白さ! 戦後文学必読の書」。第2巻の解説で阿部和重は、読者が「そんな惹句(じゃっく)は聞き飽きた」と思うのは承知で「少しの誇張もない真実」として「この小説は、迷わず全巻買い揃えるべきだ」と記し、「世界文学的にも最高水準に値する一篇」と強調している。

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