『手鏡』の主人公の王士禎(演者は李濱。筆者提供)

 

 最近の京劇界では、相変わらず新編歴史劇の創作が続いているようだ。それというのも今年初めに『陳廷敬』(2018年4月3日「いまだに『京劇』で宣伝教育する『習近平一強体制』の時代感覚」参照)が話題になったのに続き、山東省の淄博(しはく)市京劇院が創作した『手鏡』が7月5日に淄博劇院で初演されるや、爆発的な人気を博したと報じられ、中国政府文化部文化芸術人材中心が主管する『中国京劇』も特集を組むなど、全国展開の動きを見せようとしているからである。

正義を貫く役人を描く

『手鏡』の主人公の王士禎(おう・してい/1634年~1711年)は淄博出身で、「王漁洋」の名で知られる清朝初期の代表的詩人の1人でもある。役人としては、清朝を隆盛に導いた康熙帝の治世で法務行政を司る刑部尚書(法務大臣)を務め、漢族官僚としては最高位とも言える「二品」の位階を与えられた。しかし康熙43(1704)年、部下が犯したとされる疑獄事件に連座したことで官を辞す。後に恩赦によって官途に戻ったが、程なく亡くなっている。

『手鏡』は、揚子江下流域の江南を舞台に始まる。

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