『まんが道』や『バクマン。』など、マンガ家が主人公の作品は多い。本欄でも第4回の今回、あるマンガ家の回顧モノを取り上げようと思い、担当編集者にもそう伝えていたのだが、思うところあって、最近再読した土田世紀の『編集王』(全16巻、小学館)について書くことにした。

 これまで本欄はネタバレを極力避けて書いてきたが、今回は引用や筋の紹介が多い。「予告編を見ないで映画館に行く主義」の方は、先に作品を通読するのをお勧めする。マンガや出版に多少なりとも興味のある方なら、読んで損はない傑作だ。

「馬鹿どもの三平方の定理だ」

『編集王』は、青年コミック誌「週刊ヤングシャウト」の見習い編集者になったボクサー崩れの若者、桃井環八(カンパチ)を軸に、個性的な編集者や漫画家を描く群像劇だ。土田の持ち味である泥臭い人間ドラマの熱量とともに、『編集王』を傑作たらしめているのは、出版業界の構造問題に正面から切り込む大胆さだ。どんな状況でも「一番大事なものを無条件に最優先出来る屈強な男」であるカンパチは、業界の“常識”や悪しき慣習に抗い、あちこちで衝突や騒動を起こす。

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