『あとかたの街』(おざわゆき、講談社)は、第2次世界大戦末期の名古屋市を舞台とする名作だ。著者は2015年度に本作とシベリア抑留に材を取った『凍りの掌(こおりのて) シベリア抑留記』(講談社)の2作を対象に、日本漫画家協会賞の大賞を獲得している。

もうすぐ平成が終わる

おざわゆき『あとかたの街』 講談社

 今回、当欄で本作を取り上げようと考えた理由は3つある。

 2つは個人的なもので、私は、著者おざわと同じ名古屋生まれ・名古屋育ちだ。名古屋の街が空襲で焼き尽くされたことは、学校でも詳しく習ったし、歴史関連の展示イベントなどで空襲直後の写真などにも、他県出身者よりは多く接する機会があった。なのに、恥ずかしながら『あとかたの街』は、この年末まで未読だった。灯台下暗しというか、「知ってるつもり」で読むのを後回しにしていた。遅ればせながら今回読んでみて、「これは多くの人に知ってもらいたいマンガだ」と強く思った。

 もう1つの理由は、我が家の本棚にあった『凍りの掌』(こちらは15年に出た新装版を初版で買ってあった)を、小6の三女が年末にふと手に取って読んだことだった。感想を聞くと、「絵がかわいいし、面白かった」という答えが返ってきた(時系列で言うと、三女の感想をきっかけに、『あとかたの街』も読ませようと発注したという成り行きだった)。三女の気まぐれな読書をみて、「戦争をマンガで描く」という手法のもつ可能性、重要性に改めて気づいた。

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