また3月11日が巡ってきた。

 東日本大震災から8年。日々の報道が減るなか、まだら模様の被災地の復興と、一筋縄ではいかない福島第1原子力発電所の廃炉の歩みについて、定点観測的に大量の情報があふれる時期だ。

 前者と後者は、「放射能汚染」という補助線でつながっている。厄介なのは、このテーマにはデマや、反原発運動のプロパガンダといった情報のノイズが大量に入り込むのが常なことだ。大量のノイズには、風評被害や誤解といった直接的な弊害だけでなく、事実をふるい分ける作業の負担の重さが、人々を無関心へと押しやってしまうという間接的な害悪がある。

 私は若いころから原発というテーマに関心を寄せ続けてきた。この「ノイズの処理」は昔から面倒な問題だったが、「3・11」以降、その度合いは格段に増してしまった。

「フクイチなんて言う奴はいない」

 竜田一人(たつた・かずと)の『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』(講談社)は、そうしたノイズやバイアスのない貴重な情報源であり、しかもそれをマンガという手段で表現した稀有な作品だ。

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