史上初のブラックホールの撮影成功やJAXA(宇宙航空研究開発機構)の無人探査機「はやぶさ2」の活躍など、宇宙を巡って夢のあるエキサイティングな話題が相次いでいる。一方、中国が月の裏側へ探査機を送りこみ、ドナルド・トランプ米大統領が宇宙軍創設や月面への有人探査を表明するといった、大国間の宇宙を巡る覇権争いにも拍車がかかりそうな気配だ。

「未開の領域へ」という情熱と苦悩

 宇宙というフロンティアと人類のかかわりを正面から描いた傑作が、幸村誠の『プラネテス』(講談社)だ。コミック自体が2002年度、アニメ化作品が2005年度の星雲賞(優秀なSF作品や活動に贈られる)を受賞している。原作とアニメのダブル受賞は宮崎駿の『風の谷のナウシカ』以来という快挙だ。

 物語の舞台は2070年代。宇宙開発は、月面で採掘する核融合燃料のヘリウム3が人類の主要エネルギー源となるほど進み、火星には基地が置かれ、木星や土星への有人探査が検討されるステージまで進んでいる。

 主人公の星野八郎太、通称「ハチマキ」は、地球や月の衛星軌道上の「デブリ」の回収業者として船外活動に従事している。衛星やロケットなどの人工物の残骸であるデブリは、宇宙船や軌道上の施設と衝突事故を引き起こす厄介な障害物。その回収は重要ではあるが、華々しい宇宙開発の中では地味な役回りだ。

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