アフガニスタンでの戦争犯罪捜査をお膝元に拒否された、ベンスーダ主任検察官(ICCホームページより)

 

 ICC(国際刑事裁判所)が漂流している。『フォーサイト』では昨年、アフリカ諸国のICCからの脱退騒動について書いたことがある(アフリカ諸国「国際刑事裁判所」脱退騒動の深層 2018年7月25日)。

 この問題の背景には、ICCの捜査対象が、アフリカでの戦争犯罪に偏っているという構造的な傾向があった。ICCにとっては、この構造的な傾向を積極的に解消していくことに大きな利益があるはずであった。ところがそのための起爆剤として期待されていたアフガニスタンにおける戦争犯罪の捜査の開始を、ICC自らが拒絶するという事件が、4月に起きた。これは今後のICCの活動に大きな暗い影を落とす大事件であったと言える。

 本稿では、この事件の背景及び関連した状況を概観しながら、ICCは今どのような危機に直面しているのかを明らかにしたい。その延長線上で、ICCの最大資金拠出国である日本の立ち位置も問われていることを指摘する。

「アフガニスタン戦争犯罪」捜査開始を要請したが

 ICCは、戦争犯罪人を処罰するために作られた国際裁判所である。現在、122の諸国が加入している。日本は、2007年に正式加入した。GDP(国内総生産)に比例して分担金が決められるため、米国と中国が加入していないICCにおいて、日本は最大の資金拠出国である。

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