現地紙に掲載された「審判の棒」を手にするアダ・クラウ市長(筆者提供、以下同)

 

 スペインでは市長に選出されると、約65センチの細長い棒を授与される儀式が行われる。スペイン語で「市長」をalcaldeというが、これはアラビア語の「قاضي, al qādī」(審判者)に語源がある。イスラム支配下の中世スペインでは、土地を巡って争いが起きるたびに、「審判者」がこの棒を使って調停を行ったという。メートル法がない時代、好き勝手な計測で不正がまかり通らないよう、この「棒」は絶対的な判断基準として権威を誇った。その慣習が現代にも受け継がれ、「審判者の棒」は、権威と公正さの象徴として市長任命の儀式に欠かせないものになっている。

ありえないスケール

 6月15日、スペイン各地で「審判者の棒」が新市長の手に渡った。市長に任命されるためには、市議会で最多数の得票を得る必要がある。統一地方選挙が5月26日に行われてから2週間あまり。絶対多数を獲得していない各党は、市長擁立をめぐって様々な連立シナリオを描き、交渉や駆け引きを繰り広げてきた。

 その結果でまず波紋を呼んでいるのが、首都マドリードだ。新市長が所属する「国民党」は長年の汚職スキャンダルが噴出したことで、2018年、同党のマリアノ・ラホイ前スペイン首相が辞任してから勢いを失ったままだ。今回の市長指名獲得に当たっては、中道右派「シウダダノス」との連立に加え、極右政党「ボックス(VOX)」(『スペイン極右政党「VOX」大躍進のキーワードは「普通」』 2019 年5月28日 参照)の支持を受けた。たとえ地方政治とはいえ、極右政党との協力関係が生まれたことに、隣国のエマニュエル・マクロン仏大統領も懸念を示したと伝えられている。

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