英語に「brothers in arms」という表現がある。ともに武器をとった仲間、戦友を指す言葉だ。一定年齢以上の読者なら、ダイアー・ストレイツの名盤のタイトルを思いだすかもしれない。戦場という極限状態を共有した強い絆は、文学や映画でも、男の友情を描く格好の題材となってきた。

 『あれよ星屑』(エンターブレイン、KADOKAWA)は2人のbrothers in armsの友情を主題とした、いわゆる「バディもの」の傑作だ。ゲイ雑誌などで活躍してきた知る人ぞ知る漫画家だった山田参助は、この初の長編連載で一気に注目作家となった。

「焼け跡の世界」のリアリティー

 単行本の帯に「焼け跡ブロマンス」「敗戦グラフィティ」とあるように、ストーリーの大部分は戦後の日本で展開される。復員直後、上京する汽車内で有り金をだまし取られた黒田門松は、闇市の屋台の雑炊屋で無銭飲食に及ぶ。地まわりのヤクザ、小津組とトラブルになったところで元上官の「班長殿」こと川島徳太郎と再会する。腕っぷしが強く、粗野で無学だが憎めない大男の元一等兵・門松と、英語と中国語に通じるインテリの元軍曹・川島を軸に、闇市で生業を営む人々や路上の娼婦、ストリップ小屋の踊り子たち、焼け出された孤児、刑事や進駐軍らが群像劇を繰り広げ、合間に戦中の回想が挟み込まれる。

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