ロシア弾丸出張中のつぶやき

執筆者:池内恵2019年11月3日

きわめて短い出張のためにロシアに向かっている。

もちろん私はロシアは全くの専門外で、土地勘も、気候条件もないので、とりあえず寒いと聞いて(すでに氷点下らしい)、むやみにかさばる防寒着をトランクに詰め込んで、弾丸出張とは思えない山ほどの量の荷物を抱えて移動しているのだが、しかし私に「ロシアに行ってください」という出張依頼が来るようになるのは、やはりこれは国際情勢の変化を反映していると言わざるを得ない。

2001年の9・11事件と、それに対して米国の中東を中心にしたグローバルな「対テロ戦争」の展開、2003年のイラク戦争と、米国から同盟国への賛同・参加要請といった事態が、過去20年弱の国際政治の主軸であった。

そのような状況から、私には「米国に行ってください」と、様々な枠組みで出張(あるいは研究員としての派遣など)の依頼が来たものである。

そういった依頼から、中東という特殊で活気のある多様な地域に閉じこもり、イスラームという固有に普遍性を主張する力強い理念に取り組んで沈潜しがちな中東・イスラーム研究者の目を、より広い世界に開かせていただいたものである。数多くの方々のご配慮に感謝している。

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