新型コロナウイルスの猛威が世界を覆っている。原子力発電所事故以降の放射能に対する過剰反応が示すように、人間は「目に見えない脅威」に弱い。日本政府の対応や情報開示が後手に回っているのもあり、不安が高まるのも無理はない気もする。

 では、もし病原体が「目で見える」としたら、どうだろう?

 そんな思考実験と、菌やウイルスに関する知識を仕入れる教材として、今回は石川雅之の『もやしもん』(講談社)を取りあげよう。2004年から2014年まで長期連載され、手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞してアニメ化もされた快作だ。

主人公は「菌が見える少年」

 物語は、日本酒造りに用いる種麹(もやし)を商う老舗の次男坊・沢木惣右衛門直保(そうえもんただやす)と幼馴染の結城蛍(けい)が農業大学に入学するシーンから始まる。基本はこの農大を舞台にアレコレ起きる「学園モノ」だ。

 本作を異色作としているのは、「主人公・直保は菌やウイルスを肉眼で見られて、会話もできる」という、なかなか強引な設定だ。この一点突破の「異化」の効果で、読者は2つの世界とその「あわい」を行き来する風変わりな視点を提供される。

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