グローバルな「成長なき時代」をどう理解するか

岩村充『国家・企業・通貨 グローバリズムの不都合な未来』(新潮選書)

執筆者:齊藤誠2020年3月20日
 

 本作『国家・企業・通貨』著者の岩村充氏は、日本と世界の金融のあり方を透徹した視点で考察し、そこで練られたアイディアを実践してきた日本人の1人である。

 私が彼の著作に初めて出会ったのは、2000年に公刊された『サイバーエコノミー』(東洋経済新報社)であった。その著作では、すでに非対称暗号の議論を提起し、暗号技術が金融の中核となっていくことが明解に論じられていた。暗号通貨が「流行」してから後に議論を追っかけ始めた私のようなものとは、年季の入り方が違うのである。そんな著者が、国家、企業、通貨を語るのであるから、面白くないはずがない。

 本書は、すでに新潮選書から公刊された『貨幣進化論』『中央銀行が終わる日』に続く第3部にあたる。これらの3部作では、いずれも「成長なき時代」の金融、とりわけ通貨のありようを論じ、論点を深化させてきた。

 しかし本書では、金融・通貨に国家と企業を加えることで、議論をより高い次元に発展させている。

 第1章「それらは19世紀に出そろった」は、本書の主役たち、すなわち国民国家、株式会社、そして中央銀行が19世紀に出そろった経緯が、読者の興味を引き続ける筆致で描かれている。

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