今回は何度か紹介しようと試みては断念してきた作品、『捨てがたき人々』(小学館、幻冬舎)を取りあげる。

 6月に入り、作者・ジョージ秋山氏が先月亡くなっていたことが明らかになった。この機会に書くしかないだろうと腹を固めた。以下、敬称略で書き進める。

 書くのを諦めてきたのは、この作家の作品に正面から向き合うと、「すごい」の先につなぐ言葉が浮かんでこないからだ。それはジョージ秋山が、村上春樹が言うところの「地下二階」、魂の住む場所まで降りていって物語をつかみ取る稀有な資質の持ち主だったからだろうと思う。

「人間心理の根っこ」に手を突っ込む力

 最初に白状しておくと、私はジョージ秋山の熱心な読者ではない。

 繰り返し読むのは『銭ゲバ』(小学館、幻冬舎ほか)と『捨てがたき人々』の2作のみ。『アシュラ』(幻冬舎ほか)などその他の作品は単行本などで触れ、代表作の『浮浪雲』は掲載誌の『ビッグコミックオリジナル』(小学館)を手にとった際に読んでいた程度だ。

 敬して遠ざけてきたのは苦手意識によるところが大きい。

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