愚行と矜持を描き切った叙事詩:宮崎駿『風の谷のナウシカ』
2020年8月12日
自然の前で人間の力など小さなものだ。
新型コロナウイルスに翻弄される日々は、我々にこの陳腐な言い回しを再認識させる。
一方でその小さな存在が気候変動を引き起こし、人類は自然と調和したあり方を模索しつつある。
我々は危機を前に賢明な選択ができるのか。
この一大テーマを念頭に最近、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』を精読した。
映画とはまったく別の作品
マンガ版『風の谷のナウシカ』は、中断を挟みつつ、1982年から1994年まで『アニメージュ』誌上で連載された。
1984年公開の映画版は、関与したスタッフが「スタジオジブリ」の原型となったことを考えれば、日本のみならず世界のアニメにとってエポックメイキングな作品だ。ただ、壮大なテーマを描き切れず、やや中途半端な出来に終わっており、私はテレビ放送されていてもチャンネルを合わせる気にはならない。
映画版の数倍のボリュームをもつ原作はまったく別の作品と言って良いだろう。こちらは2~3年に1度は通読する屈指の愛読書だ。それはそうだろう。巨匠が自らペンを執って描き上げた唯一の長編マンガ、一大叙事詩なのだから。
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