維新の経験を世界に生かす理想と情熱

北岡伸一『明治維新の意味』(新潮選書)

執筆者:五十嵐文2020年10月12日

 明治維新150年にあたる2018年に起草された本書は、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって、当初の計画より上梓が遅れた。今日的なメッセージ性は、むしろ高まった感がある。

 世界はパンデミックによる閉塞のさなかにある。停滞を打破し、新たな発展をめざすには何をすべきか。本書は1世紀半近くも前、日本が驚くべきスピードで実現した変革の実態とその理由を解き明かすことで、現代の政治の課題を浮き彫りにする。

 北岡氏は、日本政治・外交史を専門とする学者であると同時に、国連大使や国際協力機構(JICA)理事長として、100を超える国々に足を運んできた。学問の世界にとどまらず、現実の政治や外交に深く関わる中で養ってきた現場感覚と、日本を常に世界から眺めるグローバルな視線が、本書を貫いている。

日本と中国「近代化」の差

 日本は他のアジア諸国に先駆けて近代国家を樹立した。北岡氏は「外を見る目」の有無、つまり周辺の国際情勢を正しく認識し、行動したかどうかが大きかったと分析する。

 日本は「中華文明の辺境」にあった。東西文明の接触の時期にあたり、「中国人にとっては、中国より優れた文明があるとは思えなかった」が、日本人にとっては日本より優れた文明の存在は自明だった。国を開き、西洋式の制度や民主的な価値観を取り入れることへのハードルは低かった。

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