再生医療などの発達でヒトの寿命が将来、150歳程度まで延びる可能性がささやかれる。一方でニュージーランドでは最近、国民投票で安楽死が合法化される方向となった。新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、「死」について考える機会が増えた人も多いのではないだろうか。

 今回はそんな文脈のなかで、高橋留美子の傑作『人魚の森』を取りあげたい。

テーマは不老不死

「不老不死」がテーマの『人魚の森』。シリーズは『人魚の森』『人魚の傷』『夜叉の瞳』の全3巻

 私ははじめ、この連作短編を『るーみっくわーるどスペシャル』(小学館)の全2巻版で読んだ。手元にある2003年刊の『人魚シリーズ』(同)は『人魚の森』『人魚の傷』『夜叉の瞳』の全3巻で、前バージョンで未収録だった「夜叉の瞳」と「最後の顔」が加わっている。この文章ではシリーズ全体を指して『人魚の森』と書く。

 『人魚の森』のテーマは不老不死だ。

 現代から500年ほど前、漁師だった主人公湧太は不老不死の妙薬である人魚の肉を口にする。人魚の肉はほとんどの人間には猛毒で、体に合わなければ即死するか凶暴な怪物の「なりそこない」に変身してしまう。一緒に肉を食べた仲間は死に、生き残ってしまった湧太は「寿命を全うして死ぬ方法」を知るはずの人魚を探す旅に出る。

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