「フィールドワーク」で迫る香港社会の「実相」

阿古智子『香港 あなたはどこへ向かうのか』(出版舎ジグ)

執筆者:吉岡桂子2021年1月26日

 英国から中国へ返還されて20年あまりが過ぎた香港で、中国の強権的な支配によって自由な空間が細り続けている。香港国家安全維持法(国安法)の施行直後から、目の当たりにする民主派の大規模な逮捕は、「一国二制度」のもと50年にわたって約束されたはずの「高度な自治」がうち捨てられたことを示す。

闘うべきは「体制がもたらす矛盾」

評者曰く、この本は筆者が「香港に入り、『五感』を揺さぶられながら歩いた魂の記録」だという

 『香港 あなたはどこへ向かうのか』(出版舎ジグ)の著者である阿古智子氏は、1990年代後半から2001年までの5年間、香港で学んで教育学の博士号を取得し、研究者の道に進んだ。不安と同時に、植民地を脱することへの高揚とほのかな希望が寄せられていた時代である。

 本書は、著者が20代後半を過ごした青春の地の変容に、「突き動かされるようにして」香港に入り、「五感」を揺さぶられながら歩いた魂の記録だ。「あなたはどこへ向かうのか」という問いかけは、香港で出会った人々に対するようでいて、自らへ発したものではないか。「わたしはどう向き合うのか」と。

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